本記事の目的
本記事は、野球場やサッカー場の多寡について、特定の競技を擁護・批判することを目的としたものではありません。
目的は、スポーツ庁「令和6年度 体育・スポーツ施設現況調査」に基づき、野球場・ソフトボール場、球技場、多目的運動場などの施設数を整理し、今後の議論ができるだけ正確な事実認識のもとで行われるようにすることです。
まずは数字を確認し、そのうえで、施設数だけでは判断できない点について補足します。
本記事における集計上の前提
本記事では、比較対象を「野球場・ソフトボール場」「球技場」「多目的運動場」という屋外グラウンド系施設に絞ります。これは、野球場・ソフトボール場と比較するうえで、屋外のグラウンド環境に対象を揃えるためです。
ただし、実際には屋内型フットサル施設や体育館でのフットサル利用など、サッカー系競技に利用される施設は別途存在します。したがって、本記事で示す「球技場+多目的運動場」の数は、サッカー系競技の利用可能施設全体を網羅するものではありません。屋内型施設等を含めれば、実際の利用可能施設数は本記事で示す数字より多い可能性があります。
本記事で主に扱う施設区分は、以下の3つです。
| 施設区分 | 本記事での扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 野球場・ソフトボール場 | 野球側の施設として扱う | スポーツ庁統計に独立した施設区分がある |
| 球技場 | 狭義のサッカー関連施設として扱う | サッカー、ラグビー、ハンドボール、ホッケー等を含む。サッカー専用施設数ではない |
| 球技場+多目的運動場 | 広義のサッカー利用可能性のある施設として扱う | 多目的運動場のすべてがサッカー利用に適しているとは限らない |
同調査には「サッカー場」という独立した施設区分はありません。
そのため本記事では、球技場を狭義のサッカー関連施設、球技場+多目的運動場を広義のサッカー利用可能性のある屋外グラウンド系施設として扱います。
また、学校体育施設については、地域に開放されている場合もあれば、一般利用が難しい場合もあります。そのため、学校体育施設を含む場合と除く場合の両方を示します。
全国の施設数
スポーツ庁「令和6年度 体育・スポーツ施設現況調査」によると、全国の主な施設数は以下の通りです。

まず、野球場・ソフトボール場は全国に9,829施設あります。
一方、サッカーを含む球技専用施設である球技場は3,938施設です。
この2つだけを比べると、野球場・ソフトボール場の方が球技場より多いことになります。
ただし、サッカーは球技場だけで行われる競技ではありません。多目的運動場でもプレー可能です。多目的運動場は全国に41,610施設あり、球技場と多目的運動場を合計すると45,548施設になります。
ただし、これは「サッカー専用施設が45,548施設ある」という意味ではありません。球技場にはサッカー以外の球技施設も含まれます。また、多目的運動場のすべてがサッカー利用に適しているとは限りません。
あくまで、サッカー利用可能性のある屋外グラウンド系施設を広めに見た場合の数字です。
学校体育施設を除いた場合
スポーツ施設数を見る際には、学校体育施設を含めるかどうかでも数字が変わります。
学校グラウンドは、地域に開放されている場合もあれば、一般利用が難しい場合もあります。そのため、本記事では、学校体育施設を含む場合と除く場合を分けて整理します。
条件別の比較
上記を整理すると、以下のようになります。

この表から分かるのは、比較対象の取り方によって、数字の見え方が大きく変わるということです。
野球場・ソフトボール場と球技場だけを比べれば、野球場・ソフトボール場の方が多くなります。
一方で、サッカーが多目的運動場でも実施可能な競技であることを踏まえ、球技場と多目的運動場を合わせて見ると、野球場・ソフトボール場とは異なる見え方になります。
また、屋内型フットサル施設や体育館でのフットサル利用などは含めていないため、サッカー系競技に利用される施設全体で見れば、実際の利用可能施設数はここで示した数字より多い可能性があります。
数字を見る際の注意点
施設数は、公共スポーツ施設を考えるうえで重要な基礎データです。
しかし、施設数だけで「足りている」「足りていない」「優遇されている」「冷遇されている」「無駄である」と判断することはできません。
たとえば、多目的運動場の中には、サッカー利用に適した施設もあれば、広さ、表面、設備、予約条件などの面でサッカー利用が難しい施設もあると考えられます。
一方で、野球場・ソフトボール場にも、公式戦に対応できる本格的な球場から、河川敷の簡易グラウンドまで幅があります。
つまり、どちらの数字にも、施設の質や実際の使われ方までは含まれていません。
施設としての意味を判断するには、少なくとも以下のような観点を個別に見る必要があります。
- 立地:利用者が実際にアクセスできる場所にあるか
- 規格:練習用なのか、公式戦や大会にも対応できるのか
- 表面:土、天然芝、人工芝、河川敷など、どのような状態か
- 設備:照明、更衣室、駐車場、観客席、防球ネットなどが整っているか
- 予約可能性:土日・夜間・一般利用がどの程度可能か
- 利用実態:年間利用日数、稼働率、利用団体、利用人数はどの程度か
- 維持管理:安全に使える状態で維持されているか
- 代替可能性:近隣施設で同じ用途を満たせるか
- 地域経済:合宿、大会、宿泊、飲食、交通需要につながっているか
「この県にはグラウンドが何面あるから不要である」「野球場がこれだけあるからサッカー場も増やすべきである」「多目的運動場が多いからサッカー環境は十分である」といった言説は、いずれも施設数だけを見た不毛な議論になりやすいと言えます。
数があることと、使える環境があることは同じではありません。
小さな地方グラウンドが地域経済を支えていることもある
また、公共スポーツ施設は、競技を行う場所であると同時に、地域経済と結びつく場合があります。
特に地方では、グラウンドや球場、陸上競技場、総合運動場が、スポーツ合宿や大会誘致の受け皿になっていることがあります。
たとえば、雪国や高原エリアでは、冬場にスキーなどのレジャー需要がある一方で、夏場の宿泊・飲食需要が落ち込む地域もあります。そうした地域では、夏場に野球、サッカー、陸上、ラグビーなどの合宿や大会を誘致することで、宿泊業、飲食業、交通事業者などを支えている場合があります。
スポーツツーリズム関連消費については、スポーツ庁関連資料において、2021年までに3,800億円という目標値が掲げられていました。また、経済産業省資料では、令和4年度のスポーツツーリズム関連消費額が1兆751億円と整理されています。
具体例として、宮崎県は県外からのスポーツキャンプ・合宿の受入実績を公表しています。令和6年度は、プロ野球、Jリーグ、WEリーグ、ラグビー、陸上などが含む1,343団体、参加人数36,325人、延べ参加人数208,457人を受け入れています。また、令和7年春季キャンプ・合宿の経済効果は99億3,300万円、PR効果は66億600万円とされています。
このことは、球場、球技場、陸上競技場、多目的広場などが、競技利用に加えて地域外からの滞在需要を生む受け皿になり得ることを示しています。
このように見ると、小規模な地方グラウンドであっても、地域外からの滞在需要を生むインフラとして機能している可能性があります。
もちろん、すべての施設が地域経済に大きく貢献しているわけではありません。利用が少なく、維持管理費だけが発生している施設もあるかもしれません。
重要なのは、施設数だけで「無駄」「必要」と判断するのではなく、その施設が実際にどのように使われ、地域にどのような役割を果たしているのかを見ることです。
まとめ
施設数は、議論の出発点にすぎません。
全体数だけで、「多い」「少ない」「無駄だ」「ズルい」などと判断するのは、あえて言えば稚拙です。
公共スポーツ施設の価値を判断するには、数だけでなく、立地、規格、設備、利用実態、維持管理、地域経済への役割などを複合的に組み合わせ、個別判断で見る必要があります。


