生成AIバブルの終わり方――過去のバブル事例に見る「熱狂、乱立、吸収、淘汰」のプロセス

テクノロジー

生成AIブームは、本物です。

文章を書く。要約する。議事録を作る。画像を生成する。社内文書を検索する。問い合わせに答える。資料を作る。コードを書く。これまで人間が時間をかけて行っていた多くの作業が、生成AIによって明らかに変わり始めています。

しかし同時に、別の違和感もあります。

議事録AI、要約AI、社内ナレッジ検索AI、FAQ AI、資料作成AI、画像生成AI、バックオフィスAI、AI導入支援会社。似たようなAIサービスが、次々と登場しています。

もちろん、それぞれに工夫はあります。実際に便利なものも多いでしょう。

ただ、利用者から見ると、「AIでできること」は増えている一方で、「なぜそのサービスでなければならないのか」は見えにくくなっています。

これは、生成AIが社会に定着していく過程なのでしょうか。
それとも、生成AIバブルが「乱立」から「吸収・淘汰」へ向かい始めている兆候なのでしょうか。

この問いを考えるうえで参考になるのが、過去のバブルです。

.comバブル、ソーシャルゲームバブル、クラウドストレージの乱立、写真加工アプリの乱立、QRコード決済の乱立。分野は違っても、そこには共通した流れがありました。

  1. 新しい技術や利用行動が生まれる
  2. 期待が過熱する
  3. 参入企業が急増する
  4. 似たようなサービスが乱立する
  5. やがて、大手プラットフォームや既存サービスに吸収される
  6. 最後に、収益性や継続価値を示せない企業が淘汰される

つまり、バブルは多くの場合、熱狂、乱立、吸収、淘汰というプロセスをたどります。

本稿では、過去のバブルがどのように生まれ、どのように膨らみ、どこから収束し、何を残したのかを整理します。そのうえで、生成AIバブルがいまどの段階にいるのかを考えます。

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バブルは本物の変化から生まれる

まず確認しておきたいのは、バブルは必ずしも「中身のない幻想」から生まれるわけではない、という点です。

むしろ、多くのバブルは本物の変化から始まります。

.comバブルは、インターネットが商流、広告、情報流通を変えるという期待から生まれました。実際、その方向性自体は間違っていませんでした。インターネットはその後、社会の基盤になりました。

ソーシャルゲームバブルも同じです。スマホ、SNS、課金、ランキング、イベント運営が結びつき、ゲームの作り方と稼ぎ方は大きく変わりました。

クラウドストレージの乱立も、PC、スマホ、タブレットをまたいでファイルを保存・同期したいという利用行動の変化から生まれました。

写真加工アプリも、スマホカメラとSNS投稿文化が結びついたことで広がりました。撮影した写真にフィルターをかける、顔を補正する、スタンプを載せる。それは、スマホ時代の自己表現や投稿文化と強く結びついた新しい利用行動でした。

QRコード決済も、スマホとキャッシュレス化という大きな流れの中で普及しました。日本でもQR・バーコード決済の利用は広がり、2025年7月のMMD研究所の調査では、通信会社と契約しているスマートフォン所有者の73.6%がQR・バーコード決済を利用しているとされています。[1]

つまり、バブルは技術が偽物だから起きるのではありません。

技術や利用行動の変化が本物だからこそ、その周辺に過剰な期待が集まるのです。

生成AIも同じです。

生成AIという技術変化が本物であることと、生成AIを掲げた企業やサービスがすべて残ることは、まったく別の問題です。

バブルは7つの段階をたどる

過去のバブルを振り返ると、そこにはある程度共通したプロセスがあります。

細かい違いはありますが、大きく見れば次の7段階です。

段階プロセス起きること
1技術・利用行動の出現これまでできなかったことができるようになる
2期待の過熱市場規模や企業価値への期待が先行する
3参入企業の急増資金・人材・企業が一気に集まる
4類似サービスの乱立似た機能が増え、違いが見えにくくなる
5コモディティ化最初は新しかった機能が「あって当然」になる
6大手による吸収OS、業務スイート、SNS、既存SaaSなどに組み込まれる
7収益性・継続価値による選別技術は残り、薄い企業やサービスは淘汰される

この流れを一言でまとめれば、熱狂、乱立、吸収、淘汰です。

生成AIバブルも、このプロセスから大きく外れているようには見えません。

1. 技術・利用行動が出現する

最初に、新しい技術や利用行動が生まれます。

この段階では、実際にこれまでできなかったことができるようになります。

  • インターネットで商品を買う
  • スマホでゲームを遊ぶ
  • ファイルをクラウドに保存する
  • 写真を加工してSNSに投稿する
  • スマホで決済する

こうした変化は、単なる流行ではありません。利用者の行動を変える力を持っていました。

2. 期待が過熱する

次に、その技術が「すべてを変える」と語られ始めます。

市場規模は大きく見積もられ、企業価値や投資額が先行して膨らみます。まだ収益モデルが固まっていなくても、「この市場は伸びる」という期待が資金と人材を呼び込みます。

3. 参入企業が急増する

期待が過熱すると、「今なら参入できる」「この市場に乗り遅れてはいけない」という空気が生まれます。

その結果、多数の企業が同じ領域に集まります。

初期には顧客側も試行錯誤中であるため、多少似たサービスでも導入されたり、試されたりします。

4. 類似サービスが乱立する

ここから、バブルは中盤に入ります。

最初は新しかった機能が、やがてどこにでもある機能になります。

  • .comバブルでは、「ネットで売る」会社が増えた。
  • ソーシャルゲームでは、ガチャ、カード収集、ランキング、イベント運営など似た構造のゲームが増えた。
  • クラウドストレージでは、保存・同期サービスが乱立した。
  • 写真加工アプリでは、フィルター、補正、スタンプ、顔加工などの単機能アプリが増えた。

この段階では、利用者から見た違いがだんだん見えにくくなります。

5. 機能がコモディティ化する

類似サービスが増えると、機能差は縮まっていきます。

最初は新しかったものが、やがて「あって当然」の機能になります。

クラウドストレージであれば、ファイル保存や同期は、OS、スマホ、業務スイート、クラウドサービスに組み込まれていきました。いまでは、個人向けの単純な保存・同期だけでなく、法人向けにはセキュリティ、権限管理、監査、共同作業、外部アプリ連携などが重要になっています。[2]

写真加工でも、同じことが起きました。かつては、フィルター、補正、スタンプ、顔加工、エフェクトといった機能を使うために、専用のアプリを開く必要がありました。しかし、それらの機能は次第にInstagram、TikTok、LINE、Snapchat、スマホカメラなどの中に組み込まれていきました。写真を加工する行為自体は残りましたが、単機能の加工アプリでなければできないことは減っていきました。

これは、生成AIにとっても重要な示唆です。

要約、議事録、検索、資料作成、画像生成といった機能も、単独サービスとして便利である一方で、より大きな利用導線に組み込まれやすい機能だからです。

6. 大手プラットフォームに吸収される

コモディティ化した機能は、より大きな利用導線を持つプラットフォームに吸収されやすくなります。

QRコード決済でも、決済機能そのものだけで差別化するのは難しくなり、加盟店網、ポイント経済圏、既存顧客基盤、金融サービスとの連携が重要になっていきました。日本のQR・バーコード決済でも、利用サービスはPayPay、楽天ペイ、d払いなどの上位サービスに集まっています。[1]

つまり、バブルが進むと、単独機能としての新しさよりも、既存の顧客接点や利用導線を持っていることが強くなります。

7. 収益性と継続価値で選別される

最後に、顧客や投資家の問いが変わります。

初期には「新しい」「便利そう」「成長しそう」で評価されます。
しかし、バブルが進むと、問われることは変わります。

  • 本当に利益が出るのか
  • 顧客は使い続けるのか
  • 顧客獲得コストは回収できるのか
  • 大手の標準機能に置き換えられないのか
  • 規制や運用リスクに耐えられるのか
  • そのサービスがなくなると、顧客は本当に困るのか

ソーシャルゲームでは、コンプリートガチャをめぐる問題をきっかけに、2012年に消費者庁の判断や業界の自主規制が進みました。[3] その後、単に似た課金モデルを持つだけではなく、IP、運営力、イベント設計、継続率、広告宣伝力などがより重要になりました。

.comバブルでも同じです。インターネットの方向性自体は正しかった一方で、収益性や現実の事業運営を伴わない企業は淘汰されました。Pets.comのように、配送コストや低い利益率に苦しみ、短期間で破綻した企業もありました。[4]

一方で、AmazonやeBayのように、単なるWebサイトではなく、顧客接点、品揃え、物流、マーケットプレイスといった実体を積み上げた企業は残りました。[5]

バブル後には技術が残り、企業が選別される

過去のバブルを見ても、バブル後に技術や利用行動そのものが消えたわけではありません。

  • .comバブル後も、インターネットは残った
  • ソーシャルゲームバブル後も、スマホゲームは残った
  • クラウドストレージ乱立後も、クラウド保存は残った
  • 写真加工アプリ乱立後も、画像加工や投稿文化は残った
  • QRコード決済乱立後も、キャッシュレス決済は残った

ただし、残り方は変わりました。

  • インターネットは「ネット企業」という特別な看板ではなく、あらゆる企業活動の前提になった
  • クラウド保存は、単独の特別な機能ではなく、OSや業務ツールの一部になった
  • 写真加工は、専用アプリだけのものではなく、SNSやスマホカメラの中に組み込まれた
  • QRコード決済は、決済単体ではなく、ポイント、加盟店、金融、顧客基盤と結びついた

つまり、バブル後に残るのは、初期の熱狂そのものではありません。

残るのは、社会に定着した技術と利用行動です。

一方で、その技術を表面的に使っていただけの企業やサービスは、熱狂が冷めると同時に選別されていきます。

生成AIはすでに熱狂の初期を過ぎている

では、現在の生成AIバブルはどの段階にいるのでしょうか。

少なくとも、生成AIはすでに「技術・利用行動の出現」という初期段階を過ぎています。

ChatGPT以降、文章作成、要約、検索、画像生成、コード生成、資料作成、問い合わせ対応などの用途は広く知られるようになりました。生成AIを使ったことがある人も、業務で試したことがある企業も増えています。

期待の過熱も、まだ続いています。

AIスタートアップへの資金流入、大手企業によるAI投資、生成AIを前提とした新サービスの立ち上げはなお活発です。つまり、資金面や期待値の面では、生成AIブームはまだ終わったとは言えません。

しかし、事業面では明らかに次の段階に入り始めています。

議事録AI、要約AI、社内検索AI、FAQ AI、資料作成AI、画像生成AI、AIチャットボット、AI導入支援など、似たようなサービスの乱立が進んでいます。

さらに、大手プラットフォームによる吸収も始まっています。

Microsoft 365には、Word、Excel、PowerPoint、OneDrive、Teams、Outlookなどの既存アプリにAI支援を組み込むCopilotが提供されています。[6] Google Workspaceでも、Gmail、Docs、Sheets、Meet、Chatなど日常的に使うツールにGemini関連機能が組み込まれています。[7]

これは、単独の生成AIサービスにとって大きな意味を持ちます。

  • 議事録を作る
  • メールを下書きする
  • 文書を要約する
  • 会議内容を整理する
  • 資料を作る
  • 社内文書を検索する

こうした機能は、単独サービスとしても便利です。
しかし同時に、すでに多くの人が使っている会議ツール、業務スイート、チャットツール、デザインツール、SaaSの中に組み込まれやすい機能でもあります。

現在地を整理すると、次のようになります。

バブルの段階生成AIの現在地
技術・利用行動の出現ChatGPT以降、すでに通過
期待の過熱まだ継続中
参入企業の急増すでに発生
類似サービスの乱立現在の中心局面
コモディティ化議事録、要約、検索、資料作成などで進行中
大手による吸収Microsoft、Google、Adobe、Zoomなどで進行中
収益性・継続価値による選別PoCから本番導入への移行で入口にいる

つまり、現在の生成AIバブルは、もはや熱狂の初期段階にはありません。

資金面ではまだ過熱が続いている一方で、事業面では「類似サービスの乱立」から「大手による吸収」と「収益性・継続価値による選別」へ移り始めています。

言い換えれば、生成AIバブルはすでに後期に入り、最終的な淘汰局面の入口に立っています。

PoCで使われるAIと本番業務に残るAIは違う

生成AIバブルの現在地を考えるうえで、もうひとつ重要なのが、PoCと本番業務の違いです。

ブームの初期には、「とりあえず試す」需要があります。

  • AIで何ができるのかを見たい
  • 社内で何か実績を作りたい
  • 競合に遅れたくない
  • まずは小さくPoCをやってみたい

この段階では、多少似たサービスでも導入されます。生成AIであること自体に新しさがあり、実験予算もつきやすいからです。

しかし、次の段階では問いが変わります。

  • それは売上に効いたのか
  • コスト削減になったのか
  • 業務時間は本当に減ったのか
  • 現場で使い続けられているのか
  • セキュリティや監査に耐えられるのか
  • 既存ツールの標準AI機能では代替できないのか

Gartnerは2025年、エージェントAIプロジェクトの40%超が2027年末までに中止されると予測し、その理由としてコスト上昇、ビジネス価値の不明確さ、リスク管理の不十分さを挙げています。[8]

これは、生成AIが不要になるという意味ではありません。

むしろ、生成AIを本番業務に残すためには、単に「AIでできる」だけでは足りないということです。

PoCで選ばれる理由と、本番業務に残る理由は違います。

バブルが後期に入るとは、この問いが変わることでもあります。

終わるのは生成AIではなくAIプレミアムである

ここでいう「終わり」とは、生成AIという技術が終わるという意味ではありません。

むしろ逆です。

生成AIが社会に広く浸透し、あらゆるツールや業務に組み込まれていくからこそ、「AIを使っていること」自体の価値は薄れていきます。

過去のバブルでも同じでした。

  • インターネットが当たり前になれば、「ネットで売っている」だけでは差別化になりません。
  • クラウド保存が当たり前になれば、「ファイルを同期できる」だけでは差別化になりません。
  • 画像加工がSNSやスマホカメラに組み込まれれば、「フィルターをかけられる」だけでは差別化になりません。
  • キャッシュレス決済が普及すれば、「QRコードで支払える」だけでは差別化になりません。

同じように、AIが当たり前になれば、「AIを使っている」だけでは差別化になりません。

生成AIバブルは、AIが使われなくなることで終わるのではありません。

AIが当たり前になることで終わるのです。

より正確に言えば、終わるのは生成AIではありません。
終わるのは、「AIを使っていること」自体に付いていたプレミアムです。

生成AIバブルは淘汰局面の入口に立っている

過去のバブルは、技術の登場、期待の過熱、参入企業の急増、類似サービスの乱立、コモディティ化、大手による吸収、収益性による選別を経て、最後に「技術は残り、企業は淘汰される」という形で終わってきました。

このプロセスに照らすと、生成AIバブルはすでに熱狂の初期ではありません。

  • 技術の出現は通過しました。
  • 期待の過熱は続いています。
  • 参入企業は急増しました。
  • 類似サービスは乱立しています。
  • 大手プラットフォームによる吸収も始まっています。
  • そして、PoCから本番業務への移行の中で、収益性や継続価値による選別が始まりつつあります。

つまり、生成AIバブルはすでに後期に入り、最終的な淘汰局面の入口に立っています。

ただし、それはAIの終わりを意味しません。

むしろ、AIが社会に定着するからこそ、AIを掲げるだけの価値は薄れていきます。

生成AIで消えるのは、生成AIではありません。
消えるのは、生成AIが珍しい間だけ成立していた「AIプレミアム」です。

では、その選別局面で、どのようなAI企業が残り、どのようなAI企業が消えるのでしょうか。

それは、「AIを使っているかどうか」では決まりません。
AIが当たり前になった後も、顧客の業務や生活の中に必要な居場所を持っているかどうかで決まります。

この点については、別の記事で改めて整理したいと思います。

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出典一覧

[1] MMD研究所「2025年7月決済・金融サービスの利用動向調査」
[2] Box「AI-Powered Content Management, Workflow & Collaboration」
[3] Atsumi & Sakai / World Online Gambling Law Report「Japan: The illegality of ‘Complete Gacha’」
[4] Investopedia「Why Pets.com Failed: Lessons From the Dot-Com Bubble」
[5] Investopedia「Understanding the Dotcom Bubble: Causes, Impact, and Examples」
[6] Microsoft「Microsoft 365」
[7] Google Workspace「AI Tools for Business」
[8] Gartner「Gartner Predicts Over 40% of Agentic AI Projects Will Be Canceled by End of 2027」

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