公設サッカー専用スタジアムをめぐっては、建設費や公費負担の議論とともに、「試合がない日はどの程度使われているのか」「市民利用や他競技利用はあるのか」といった疑問が繰り返し語られてきました。
ただ、この議論は印象論に傾きやすい側面があります。
「スタジアムは試合日にしか使われていない」という見方もあれば、コンコース、会議室、スタジアムツアー、広場などを含めて多様に使われているという説明もあります。両者は必ずしも矛盾しません。スタジアムという施設全体が使われていることと、天然芝ピッチが実際に利用されていることは、別の話だからです。
そこで本記事では、2025年冬~2026春に開催された「J100年構想リーグ」の全日程120日間中、J1クラブが本拠地として使用する公設のサッカー専用・球技専用スタジアムの利用実態を、公式サイトや施設HPなどの公開情報から確認できる限りで整理しました。
調べたのは、単純な「稼働日数」だけではありません。
施設全体として何らかのサービスが提供されていた日数、天然芝ピッチが使われた日数、ピッチを使わずスタンドに観客を入れた日数、コンコースや会議室、広場などのみが使われた日数を分けて確認しました。さらに、ピッチ利用については、プロサッカー、アマチュア貸出、他競技、イベント、スタジアムツアーに分類しました。
本調査は、印象論で語られがちな公設スタジアムの価値を、単純な稼働率だけではなく、実際の用途も含めて、可能な範囲で可視化し、定量化することを目的としています。
調査の前提
調査期間
2026年2月1日から5月31日までの120日間です。
上記は、「Jリーグ100年構想リーグ」のシーズン期間であり、リーグ戦、カップ戦、WEリーグ、AFC主催大会などが開催されうる時期を対象となります。

調査対象
J1クラブが本拠地として使用するサッカー専用・球技専用スタジアムのうち、公設であり、公式サイト上で調査期間中の利用状況を継続的に確認できた7施設を対象としました。
| クラブ | スタジアム | 所有者 | 管理・運営者 |
|---|---|---|---|
| 鹿島アントラーズ | メルカリスタジアム | 茨城県 | 鹿島アントラーズFC |
| ジェフユナイテッド千葉 | フクダ電子アリーナ | 千葉市 | SSP UNITED |
| 京都サンガF.C. | サンガスタジアム by KYOCERA | 京都府 | 合同会社ビバ&サンガ |
| ガンバ大阪 | パナソニックスタジアム吹田 | 吹田市 | ガンバ大阪 |
| セレッソ大阪 | ヨドコウ桜スタジアム | 大阪市 | セレッソ大阪スポーツクラブ |
| ヴィッセル神戸 | ノエビアスタジアム神戸 | 神戸市 | 楽天ヴィッセル神戸 |
| サンフレッチェ広島 | エディオンピースウイング広島 | 広島市 | サンフレッチェ広島 |
なお、民設民営である三協フロンテア柏スタジアムとPEACE STADIUM Connected by SoftBankは、公設スタジアムの利用実態を扱う本調査の対象から除外しました。
また、埼玉スタジアム2002およびIAIスタジアム日本平については、公式サイト上で調査対象期間の過去利用実績を十分に遡って確認できませんでした。そのため、他施設との比較可能性を確保する観点から、集計対象から除外しました。その他、抜け漏れは調査工数上の理由とご理解ください。
利用区分の定義
本記事では、利用を次の4区分に分けました。
| 区分 | 定義 |
|---|---|
| 施設稼働 | スタジアムツアーを含め、何らかの施設サービスが提供されていた日 |
| ピッチ稼働 | 天然芝ピッチが利用された日 |
| スタンドのみ稼働 | ピッチを使用せず、スタンドに観客を入れた日 |
| その他のみ稼働 | コンコース、会議室、エントランスホール、スタジアム前広場などが利用された日 |
ここで注意したいのは、施設稼働とピッチ稼働は同じではないことです。
スタジアムツアーや会議室利用、コンコースでのイベントなどが行われていれば、施設としては利用されています。一方で、そのことは天然芝ピッチが利用されたことを意味するわけではありません。
また、天然芝の養生期間、試合準備、撤収、警備計画、芝生保護といった、試合利用のためのインターバルや準備期間は利用日数には含んでいません。
本記事で確認するのは、公開情報の範囲で観測できる利用の構成です。
調査上の留意点
本調査は、各スタジアムおよび運営主体の公式サイト、公開されているイベント情報、利用案内などから確認できた範囲を対象としています。
そのため、以下の利用は必ずしも集計に反映されていません。
- 非公開の関係者利用
- 芝生管理、施設保守、警備準備、設営、撤収作業
- 公式サイトに掲載されていない貸出利用
- 小規模な会議室利用や内部利用
- 公開情報の更新遅れ、掲載漏れ、過去情報の削除
したがって、本記事で示す数値は「その日に利用がなかったこと」を完全に証明するものではありません。あくまで、公開情報から確認できた利用実態の集計です。
また、調査期間は2026年2月から5月までの120日間に限られます。年間を通じた利用状況、夏季・冬季の芝生管理、オフシーズンのイベント利用などについては、別途確認が必要です。
稼働日数・稼働率:ピッチ利用は120日間で平均16日、稼働率13.5%にとどまる
対象7施設について、公開情報から確認できた利用日数を集計しました。

対象7施設の平均では、120日間のうちピッチ利用が確認できたのは16日で、ピッチ稼働率は13.5%でした。
エディオンピースウイング広島は、施設稼働日数が84日、稼働率70.0%と突出しています。ただし、そのうち60日はスタジアムツアーなど、ピッチ以外の施設利用として確認されました。ピッチ利用は20日であり、他施設と比べて極端に高いわけではありません。
広島を除いた6施設の平均では、施設稼働率は16.3%、ピッチ稼働率は12.9%でした。
ここから読み取れるのは、「スタジアム全体の利用」と「天然芝ピッチの利用」は明確に分けて見る必要があるということです。
ツアー、コンコース利用、会議室利用、広場利用などによって、施設としての接点を増やす取り組みはあります。しかし、そのことは必ずしも、ピッチが市民利用や他競技利用に広く開放されていることを意味しません。
ピッチ稼働の内訳:ピッチは明確にプロサッカー中心に使われていた
次に、ピッチ利用を用途別に整理しました。


対象7施設のピッチ利用全体では、平均86.7%がプロサッカーでした。
アマチュアへの貸出は、120日間で平均1日でした。他競技への貸出は平均0.4日、イベント利用は平均0.3日でした。
他競技利用が確認できたのは、サンガスタジアム by KYOCERAとヨドコウ桜スタジアムで、いずれもラグビー利用でした。
また、フクダ電子アリーナとパナソニックスタジアム吹田では、調査期間中に公開情報から確認できたピッチ利用はすべてプロサッカーとなり、少なくとも公開情報の範囲では、アマチュア貸出、他競技利用、イベント利用は確認できませんでした。
この結果は、プロクラブがスタジアムを事実上独占していると直ちに断定するものではありませんが、少なくとも公開情報から把握できる範囲では、公設サッカー専用スタジアムのピッチ利用は、明確にプロサッカー中心といえるでしょう。
サッカー利用内訳:WEリーグの有無、ACLの有無で稼働日数差が生まれる
「プロサッカー利用」と一括りにしても、その内容には差があります。
Jリーグのホームゲームだけでなく、WEリーグ、AFC主催大会、クラブ主催イベントなどが重なることで、ピッチ利用日数は増えます。

最もプロサッカー利用日数が少なかったのは、サンガスタジアム by KYOCERAの9日でした。
一方、エディオンピースウイング広島では、Jリーグに加えてWEリーグとAFC主催大会の利用があり、プロサッカー利用は19日でした。
同じJ1クラブのホームスタジアムであっても、女子チームの本拠地利用、国際大会への出場、クラブ主催イベントの有無によって、スタジアムの利用実態は大きく変わります。
その差は、単純に「クラブの努力」や「施設運営の優劣」だけで説明できるものではありません。競技カテゴリー、出場大会、クラブの編成、地域のスポーツ環境など、複数の条件が影響します。
一つ言えることは、WEリーグと共用することは施設の稼働日数を増やす要因になり得るということです。
「公設なのに市民が使えない」という問いを、どう考えるべきか
この調査から確認できたのは、公設サッカー専用スタジアムの天然芝ピッチが、公開情報上では主にプロサッカーに使われているという事実です。
これだけで「市民利用が少ないから公共性がない」と結論づけるのは早計ですが、公費を含む形で整備・保有される以上、公共性を「プロクラブの興行が地域を盛り上げている」という抽象的な説明だけで済ませることも難しいでしょう。
よって、問われるべきなのは、次の3点です。
- 整備時に説明された市民利用、多目的利用、地域利用が、実際にはどの程度実現しているのか。
- 天然芝ピッチの直接利用が難しいのであれば、ピッチ以外の空間をどのように地域へ開いているのか。
- プロクラブの利用を優先することと、公設施設としての説明責任を、どのように両立させるのか。
スタジアムの専用性は、必ずしも問題ではありません。
しかし、その専用性を公費で支えるのであれば、自治体、指定管理者、クラブは、利用実態と地域還元を継続的に示していく必要があります。
本当にこの稼働率・利用内訳で良いのか?定量的な議論をしよう
今回の調査では、J1の公設サッカー専用・球技専用スタジアム7施設について、公開情報から確認できる利用実態を整理しました。
120日間におけるピッチ利用は、7施設平均で約16日でした。用途の約87%はプロサッカーであり、アマチュア貸出や他競技利用は限定的でした。
一方で、スタジアムツアー、コンコース、会議室、広場などを通じて、ピッチ以外の空間を活用している施設もあります。特にエディオンピースウイング広島では、ピッチ以外の施設利用が多く確認されました。
この結果をもって、公設サッカー専用スタジアムを「無駄な施設」と断じるわけではありません。プロサッカーの本拠地として、用途を一定程度限定する合理性は存在します。
ただし、「公設」である以上、利用実態をより透明にし、地域への開き方を説明し続けることは必要です。
公共施設としての価値を正しく評価し、議論するために、印象ではなく実際の数字で定量的な議論を交わすべきだと考え、本記事がその一助になることを願っています。



